3本借りる映画のうちの1本としてちょうどいい『ブロークン・フラワーズ』
ジム・ジャームッシュ監督の『ブロークン・フラワーズ』という映画をDVDで借りた。
いい映画だったと思う。
言いきれないのは、記憶に残るような感じではなかったから。
題名とか内容とかしばらくしたらほとんど忘れてしまうんだろうけど、何かの折にふっと思い出すような味わいがあった。
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主人公はビル・マーレイ演じるドン・ジョンストンというおじさん。
パソコン事業が当たって不自由ない暮らしをしているんだけど、一緒に住んでいた彼女に逃げられてしまい、大きな家にひとりフラッドペリーのジャージを着たまま、一日中音楽を聞いたりテレビを観たりして過ごしてる。
そしていつもつまらなそうな顔をしている。
こう書くとある種の悲壮感があるけど、そこはビル・マーレイだけに何かそこはかとない可笑しみが漂っている。
そんなおじさんが、一通の手紙をきっかけに昔付き合ってた彼女を探しに行く旅にでる。
旅行中、おじさんは他人に自分の名前を伝えるたびに「ドン・ジョンソン?」と聞き返される。
ドン・ジョンソンというのは80年代に一世を風靡した超かっこいい映画俳優のこと。みんな「え、あの?」という感じ聞き返す。
でもおじさんは「いや、ジョンストン。”t”がはいる」とサラッと正す。今までもさんざん言われてきたというふうに。
このやり取りが相手を変えて何度も出てくる。
この映画にはこんな感じの「よくわからない場面」が度々出てくる。
一見なにか意味がありそうな描かれ方をしているのに、ぜんぜんストーリーに絡んでこない。
まるでお話しになる前のぼんやりとしたエピソードの羅列を見せられているような感じだ。投げっぱなし。
映画的にはどうかと思う。
だけど普通の生活ってむしろこっちに近いんじゃないだろうか。
「何となく」の連続で物事が進んでいく。
意味があると確信をもって行動していることなんて実はほとんどない。
仮に確かな意思をもって行動したとしてもそれが必ず形になるとは限らない。
観た後は「そんなもんだよな」という後ろ向きな清々しさというか、さわやかな諦めみたいなものがあった。
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「面白い映画観たい!」と思って一本借りてきたのがこれだったら物足りないかったかもしれないけど、何本か借りたうちの一本としてはちょうどいい。
そういえば途中、ビル・マーレイがすっごいまずそうにニンジンのソテーを食べるシーンがあって、あそこだけはいつまでも覚えていそうな気がする。
だから何だってわけではないんだけど。